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東京地方裁判所 昭和23年(ヨ)2464号 決定 1948年12月18日

申請人

全日本機器労働組合国産電機東京工場分会

被申請人

国産電機株式会社

当事者双方代表者を審訊して審理した上、申請人に金壱万円の保証を立てさせて、つぎの通り決定する。

主文

被申請人が昭和二十三年十月中(十月十五日附で)被申請人の従業員たる申請人全組合員に対してなした解雇の意思表示については、その効力を停止する。

理由

申請人の申請は一応もつともである。その理由の重要な点を左にかかげる。

(一)、申請人組合と被申請人会社との間の労働協約には、その第三条に「会社は工場閉鎖、長期休業名義変更土地建物設備機械器具資材等の譲渡転用その他組合員の生活に重大な影響を及ぼす事項については、組合の同意なしには行はない」と、また第九条には「会社は従業員の雇傭解雇を組合の同意なしに行ふことは出来ない」と規定してある。しかるに、被申請人は、この協約の有効期間中なる昭和二十三年十月、申請人組合の同意をえることなく、経営上の理由で申請人組合員の属する東京工場を閉鎖する旨宣し、ついで申請人組合員たる東京工場全従業員を解雇する旨の意思表示をしたのである。

(二)、被申請人の経理の内容からみて、東京工場の経営が収支償わず、悪化の底にあえいでいることはほぼ推察のつくことである。問題は、かような結果に立ちいたつた原因がどこにあるかである。従業員たる申請人組合の労働能率が特に低かつたことはおもわれない。東京工場繁栄への被申請人の努力にやや不足があつたことがやはり前記悲運の有力な原因であつたようである。東京工場の経営継続を求めることが現在事実上難きを強いることである以上、従来の経過は如何にもあれ、経理の都合からする工場閉鎖、長期休業、工場等の譲渡につき同意を拒むことは、正当とはおもわれない。これを拒むことは同意拒絶の濫用といふほかない。被申請人は申請人の同意なきままで、これらのことをすることができるものといわなければならない、(ほかに被申請人に責任が生ずるか否かは別として)しかし解雇のことはこれと同じに考えることができない。東京工場の経営における被申請人の態度が前記の如くであり、そして被申請人が沼津市にも工場をもつて立派にやつている以上、東京工場従業員解雇に対する申請人の同意拒絶を不当呼ばわりすることは、妥当を欠くようにおもはれる。申請人の同意を得ない前記解雇の意思表示は、効力を生じないものといわなければならない。

(三)、ただし法律的効力をはなれて、申請人組合員が被申請人会社従業員の身分を保有し続けていくことが果して適当であるか否かについては、論議の余地があるであろう。当事者双方は、この点について腹を割つて話し合い、自主的な適当な解決をつけるべきであろう。そして、被申請人がどこまでも全面的解雇を欲するならば退職金の支払、転職の配慮等について、十分誠意を示さねばなるまい。しかるにすでに東京工場閉鎖、申請人組合員全員解雇が宣せられ、従業員たる申請人組合員は事実上職場を追われようとしている。申請人組合及び組合員の死活にかかる重大交渉の段階において、申請人が「被解雇者の集団」として扱われることは、申請人にとつては、著しい損害であるといわねばならない。しかも事態は切迫している。申請人の労働協約上の権利を保護してやるために、主文のような仮りの地位を定める仮処分をすることは、ごく適当なことである。以上のうち事実関係については、申請人の出した疏明方法によつて、ほぼ疏明があつたといえる。その不十分な点については、保証によつてこれを補わせることにする。万一、この処分について被申請人に不服があるならば不服申立後の手続において、さらに慎重に審理し理由をつくして、仮処分の当否を決するはずである。

註、昭和二三年一月二十日異議申立あり。

申請

東京地方昭和二三年(ヨ)第二四六四号仮処分申請事件(昭和二三、一二、九申請)

一、当事者

申請人 全日本機器労働組合国産電機東京工場分会

被申請人 国産電機株式会社

二、申請の趣旨

(一)、別紙目録記載の物件に対する被申請人の占有を解いて、申請人の委任する東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。

(二)、執行吏は現状を変更しないことを条件に、被申請人にその使用を許さなければならない。

(三)、被申請人は別紙目録記載の物件を使用して行う企業経営につき工場閉鎖及び長期休業をしてはならない。

(四)、申請人は別紙目録記載の物件を譲渡しまたは、これに抵当権、質権若しくは賃借権を設定してはならない。

との裁判を求める。

三、申請の理由

(一)、被申請人は、肩書地に本店を有し別紙目録記載の物件を所有しこれを使用し東京工場なる名称の下に商工省の生産指示に基き、ラジオスピーカー、自転車用発電ランプ製作販売している株式会社であり、申請人は東京都内に本部を置く全日本機器労働組合の一分会にして組合員一八六名を以て組織されている労働組合である。

(二)、昭和二十二年八月二十六日被申請人と前記全日本機器労働組合との間には右東京工場における労働関係につき労働協約を締結し現在なお協約は効力を持続しているが、右協約第三条は、「会社は工場閉鎖、長期休業、名義変更、土地建物、設備機械器具資材等の譲渡用その他組合員の生活に重大なる影響を及ぼす事項については組合の同意なしに行はない。」といふ条項がある。

(三)、しかるに被申請人は昨年十二月頃より右工場につき、企業整備を行うことを計画していて本年一月より賃金の支払を分割し、遅払をして自然退職をねらつていたが本年八月七日申請人に対し右工場における企業経営を廃止して工場閉鎖を行うことあるいは全従業員を五十名程度に減少し企業を縮少することにつき同意を求めたので、申請人は翌八日分会大会の決議によりこれを拒否することを決定し、その旨被申請人に通告した。

(1) 本年八月二十二日被申請人は団体交渉の過程において右工場内の移動中の機械、器具、汁器、自動車等を売却することと主張したが申請人は、これに対する同意を拒絶した。

(2) 本年九月二十六日の団体交渉の際被申請人は、あくまでも工場の閉鎖を主張して譲らなかつた。

(四)、被申請人はかくの如く終始工場閉鎖、全従業員の解雇の意思を捨てず意識的に生産を低下する如き手段を講じたことに対し申請人はその翻意を促すべく努力に努力を重ねてきたが被申請人は前記団体協約上の義務に違背し、申請人の同意なしに工場閉鎖を強行すべく計画中である。

(五)、これに対し被申請人を被告とし、労働協約に基く権利保全の本案訴訟提起の準備中であるが、もし被申請人において工場閉鎖を行い別紙目録記載の物件を処分するにおいては、申請人は回復し得ない損害を蒙るおそれあり、且つ商工省生産計画に多大の支障を来すので、右訴訟の確定を待つていることが出来ない。

よつて申請の趣旨記載のような仮処分を得たく本申請に及ぶ次第である。

(疏明省略)

東京地方裁判所 御中

(別紙省略)

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